この記事は2026年7月原稿の移行版です。制度・税制・統計は当時の説明であり、現在の適用条件とは異なる場合があります。個別の判断前に、公式情報や専門家にご確認ください。
この記事で考えること
自分に万一のことがあったとき、家族の生活はどうなるのか——。死亡保険の検討を始めると、つい「いくらの保険に入るか」から考えたくなります。ですが、その前に確認しておきたいものがあります。国の遺族年金です。
私は大手信用金庫で5年間、金融商品を売る側にいました。振り返って反省しているのは、遺族年金の説明を後回しにしたまま、大きな保障額の死亡保険をご提案する場面が少なくなかったことです。売る側にとって、公的保障を丁寧に説明するほど売れる保障額は小さくなります。だからこそ、順序が逆になりやすいのです。
この記事では、遺族基礎年金と遺族厚生年金の枠組み、会社員と自営業の違い、そして「公的保障を知ってから民間保険を足す」という順序の判断軸をお渡しします。
遺族年金は「2階建て」——基礎と厚生の枠組み
遺族年金は、亡くなった方に生計を維持されていた遺族が受け取れる公的年金で、大きく2つに分かれます。国民年金から支給される「遺族基礎年金」と、厚生年金から支給される「遺族厚生年金」です。
老後の年金と同じ2階建ての構造だと考えると分かりやすいでしょう。自営業やフリーランスの方は1階の遺族基礎年金のみ、会社員・公務員の方は1階に加えて2階の遺族厚生年金も対象になります。この構造を押さえるだけで、「わが家はどこまで守られているのか」の輪郭が見えてきます。
遺族基礎年金——「子のある家庭」のための1階部分
遺族基礎年金を受け取れるのは、亡くなった方に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」です。ここでいう子とは、原則として18歳になった年度の3月31日までにある子(障害等級1級・2級の場合は20歳未満)を指します。
つまり遺族基礎年金は、子育て中の家庭に的を絞った保障です。子のいない配偶者は対象になりませんし、末子が18歳の年度末を迎えると支給は終わります。「一生もらえる年金」ではない点に注意が必要です。
令和8年4月分からの年金額は、配偶者が受け取る場合で年847,300円に子の加算額を足した額です(昭和31年4月2日以後生まれの場合。生年月日により若干異なります)。子の加算は1人目・2人目が各243,800円、3人目以降は各81,300円と定められています。
遺族厚生年金——会社員・公務員の2階部分
会社員や公務員など厚生年金の加入者に万一のことがあった場合は、遺族基礎年金に上乗せして遺族厚生年金が支給されます。金額は一律ではなく、亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。働いてきた期間と収入に応じて決まるため、人によって差が出ます。
若くして亡くなり加入期間が短い場合でも、300月(25年)加入したものとみなして計算される仕組みがあります。また、受け取れる遺族の範囲も1階部分より広く、子のない配偶者や父母などにも優先順位に沿って支給されます。さらに、一定の要件を満たす40歳から65歳になるまでの妻には、年635,500円の中高齢寡婦加算が上乗せされる仕組みもあります。
会社員と自営業でこれだけ違う
ここまでの枠組みを、働き方の違いで整理してみましょう。同じ家族構成・同じ年収でも、公的な遺族保障の厚みは大きく異なります。
会社員・公務員
- 遺族基礎+遺族厚生の2階建て
- 子が18歳の年度末を過ぎても遺族厚生年金は続き得る
- 要件を満たせば中高齢寡婦加算も
自営業・フリーランス
- 1階の遺族基礎年金のみ
- 子が18歳の年度末を過ぎると公的な遺族給付は乏しくなる
- 民間保険で備える必要性が相対的に高い
自営業の方は公的保障が薄いぶん、民間の死亡保険でしっかり備える必要があります。一方、会社員の方は「思っていたより守られていた」と気づくケースが少なくありません。どちらが良い悪いではなく、スタートラインが違うのです。
民間保険は「不足分」を埋める順序で
死亡保険の適正額は、誰かに教えてもらうものではなく、順序立てて自分の数字から導くものです。私がご相談で必ずお伝えしている手順は次の3つです。
- 公的保障を確認するねんきん定期便や年金事務所への相談で、わが家の遺族年金がどの階建てか・おおよそどの程度かを把握する
- 必要額との差を出す遺族の生活費や教育費の見込みから、遺族年金・貯蓄・配偶者の収入を差し引き、「本当に足りない額」を出す
- 不足分だけ保険で埋める不足が続く期間と金額に絞って民間保険を検討する。足りていれば無理に入らない
この順序を踏むと、保障の重複で保険料を払いすぎることも、必要な部分が抜け落ちることも避けやすくなります。知らなかったとしても、それはあなたのせいではありません。学校でも職場でも、教わる機会がほとんどないのですから。
まとめ——保険の前に、まず公的保障
POINT
遺族年金は「基礎(子のある家庭向け)+厚生(会社員・公務員の上乗せ)」の2階建て。働き方で保障の厚みが大きく変わるため、死亡保険は公的保障の不足分を埋める順序で考える。
判断軸はシンプルです。第一に、わが家の遺族年金が1階建てか2階建てかを確認すること。第二に、遺族年金で足りない額と期間を数字で出すこと。第三に、その不足分だけを民間保険で埋めること。
保険は入ること自体が目的ではなく、公的保障で足りない部分を補う道具です。順序さえ守れば、保険選びの迷いはずっと小さくなります。
原稿に記載された出典・参考資料
- 日本年金機構「遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)」(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/izokunenkin/jukyu-yoken/20150401-04.html・2026年7月確認)
- 日本年金機構「遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)」(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/izokunenkin/jukyu-yoken/20150424.html・2026年7月確認)
一般的な情報提供を目的とするもので、個別商品の勧誘、税務・法務等の個別助言を行うものではありません。運用成果を保証するものではなく、ご自身の状況に応じた確認が必要です。



