この記事は2026年7月原稿の移行版です。制度・税制・統計は当時の説明であり、現在の適用条件とは異なる場合があります。個別の判断前に、公式情報や専門家にご確認ください。
この記事で考えること
「がんや事故で働けなくなったら、収入が途絶えてしまうのでは」——ご相談の場で、この不安を口にされる方はとても多くいらっしゃいます。就業不能保険や医療保険のパンフレットを前に、何をどこまで備えればよいのか分からなくなるのも無理はありません。
ですが、民間保険を検討する前に知っておきたい制度があります。障害年金です。老後の年金と同じ公的年金制度の一部でありながら、現役世代にとっての「働けなくなったときの保障」であることは、あまり知られていません。
この記事では、障害基礎年金と障害厚生年金の枠組み、対象になる範囲の広さ、そして「自分で請求しないと受け取れない」という最大の注意点をお伝えします。
障害年金は「けがの保険」ではない——病気やうつも対象になり得る
障害年金と聞くと、事故で身体に重い障害が残った場合の制度、というイメージを持つ方が多いかもしれません。実際には対象はもっと広く、がんや糖尿病などの内部疾患、うつ病をはじめとする精神疾患など、病気やけがで生活や仕事が長期にわたり制限される状態も、要件を満たせば対象になり得ます。
ポイントは「障害者手帳の有無とは別の制度」だということです。見た目に分かる障害でなくても、日常生活や就労への支障の程度に応じて等級が判断されます。「自分は対象外だろう」と思い込んで請求の検討すらしない——これが最ももったいないパターンです。
2階建ての枠組み——障害基礎年金と障害厚生年金
障害年金も、遺族年金や老後の年金と同じ2階建てです。どちらの制度の対象になるかは、障害の原因となった病気やけがで初めて医師の診療を受けた日(初診日)に、どの年金制度に加入していたかで決まります。
障害基礎年金(1階)
- 初診日に国民年金に加入していた方など
- 等級は1級・2級
- 金額は定額+子の加算
障害厚生年金(2階)
- 初診日に厚生年金に加入していた会社員・公務員など
- 1級・2級に加えて、より軽い3級や一時金の仕組みもある
- 報酬比例部分が基礎に上乗せされる
会社員の方は2階建てで保障が厚く、対象となる障害の範囲も1階だけの場合より広くなります。ここでも自営業・フリーランスの方は1階のみとなるため、働けなくなるリスクへの備えは相対的に手厚く考える必要があります。
いくら受け取れるのか——障害基礎年金の額
障害基礎年金の金額は定額で、等級によって変わります。令和8年4月分からの年額は次のとおりです(昭和31年4月2日以後生まれの場合。生年月日により若干異なります)。
18歳の年度末までの子などがいる場合は、1人目・2人目につき各243,800円、3人目以降は各81,300円が加算されます。障害厚生年金はこれに報酬比例部分が上乗せされるため、金額は人それぞれです。生活のすべてを賄える額とは限りませんが、土台としては決して小さくありません。
最大の注意点——「申請しなければ受け取れない」
障害年金には、知っておかないと取り返しがつきにくい特徴があります。申請主義、つまり自分で請求手続きをしない限り、要件を満たしていても1円も支給されないことです。役所や年金事務所が「あなたは対象ですよ」と教えに来てくれることは、基本的にありません。
請求を考えるときの大まかな流れは次のとおりです。
- 初診日を特定する障害の原因となった病気・けがで初めて受診した日を確認する。制度の入り口となる最重要情報
- 保険料の納付要件を確認する初診日の前日時点で、保険料の納付状況が要件を満たしているかを年金事務所等で確認する
- 診断書など書類をそろえて請求する医師の診断書や病歴の申立書を準備し、年金事務所等へ請求する。障害認定日など請求のタイミングにもルールがある
手続きは正直、簡単ではありません。初診日の証明が難しいケースもあります。体調がすぐれない中で一人で抱え込まず、年金事務所や社会保険労務士など専門家の力を借りることも選択肢に入れてください。
就業不能保険との関係——足すかどうかの判断軸
民間の就業不能保険を検討するなら、順序は死亡保険と同じです。まず障害年金という土台を知り、それでも足りない部分があるかを確認してから考えます。
信用金庫で売る側にいた経験から言えば、働けないリスクへの不安は商品を売りやすい入り口です。だからこそ売る側は、公的保障の説明よりも先に商品の話を始めがちです。パンフレットの給付例だけを見て決めるのではなく、「障害年金で土台はいくらあるか」「貯蓄で何か月しのげるか」「勤務先の傷病手当などの制度はあるか」を先に確認してください。
POINT
就業不能保険は、障害年金・勤務先の保障・貯蓄を確認した後の「不足分」に対して検討する。公的保障が薄い自営業・フリーランスほど、民間で備える意味が大きくなる。
まとめ——制度を知ることが、最初の備え
判断軸を3つに整理します。第一に、障害年金は事故だけでなく病気や精神疾患も対象になり得る、現役世代の保障だと知ること。第二に、申請主義のため、いざというときは「請求できるか確認する」行動が不可欠だと覚えておくこと。第三に、民間の就業不能保険は公的保障の不足分を埋める順序で考えることです。
制度を知っているかどうかで、いざというときの選択肢は大きく変わります。今日知ったことが、そのまま備えの第一歩です。
原稿に記載された出典・参考資料
- 日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20150514.html・2026年7月確認)
- 日本年金機構「障害基礎年金(受給要件・請求時期・年金額)」(https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/shougainenkin/jukyu-yoken/20150401-01.html・2026年7月確認)
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