この記事は2026年7月原稿の移行版です。制度・税制・統計は当時の説明であり、現在の適用条件とは異なる場合があります。個別の判断前に、公式情報や専門家にご確認ください。
この記事で考えること
企業型確定拠出年金(企業型DC)を導入したものの、「社員がよく分からないまま、掛金が定期預金などの元本確保型に置かれて何年も見直されていない」——DC導入企業の人事・総務担当者から、私が最も多く伺う悩みがこれです。
導入時には説明会を開いたはずなのに、なぜ放置が起きるのか。そして会社は、どこまで、どうフォローすべきなのか。本記事では、放置が生まれる構造、導入時研修と継続教育の違い、講師選びの判断軸を、社内説明に使える形で整理します。
「放置」は社員の怠慢ではなく、構造の問題
最初に押さえたいのは、放置は個人の意欲の問題というより、仕組み上起きやすい現象だということです。企業型DCでは、社員が商品を選ばない場合、あらかじめ決められた商品に掛金が置かれます。多くの企業で元本確保型が指定されてきた経緯があり、「選ばない」がそのまま「定期預金のまま」につながる設計なのです。
複利は、収益を再投資することで次の収益にも影響する仕組みです。一定の利回りを置いた計算例と、実際には値動きがある運用とを分けて理解することが大切です。
口座を開くだけでは、資産形成の計画は完成しません。ご自身の目的と家計に合う使い方を理解し、無理のない行動へつなげることが大切です。
導入時研修の限界を知る
導入時の説明会には、構造的な限界があります。時間の大半が制度の仕組み——拠出、運用、給付、税制上の扱い——の説明に割かれ、社員が本当に知りたい「では自分はどう選べばいいのか」に届く前に終わってしまうことが多いのです。情報量も一度に受け取るには多すぎます。
加えて、導入時研修は「その時いた社員」にしか届きません。中途入社者は説明会を経験しないまま加入し、若手のころ聞いた社員も、結婚や住宅購入で状況が変わったときに聞き直す機会がありません。
POINT
導入時研修が担えるのは「制度を知る」まで。「自分の配分を決められる」に至るには、継続的に学び直せる場を別に設計する必要があります。
継続的な投資教育——制度上も期待されている取り組み
ここで根拠になるのが、継続投資教育の考え方です。確定拠出年金の制度では、事業主が加入者に対して継続的に投資教育を行うよう努めることが求められています。つまり社員フォローは「余裕があればやる親切」ではなく、制度上も期待されている事業主の取り組みなのです。
とはいえ、やみくもに研修を増やせばよいわけではありません。継続教育は、次の流れで設計すると社内で説明しやすくなります。
- 現状を数字で把握する元本確保型に置かれている割合や配分変更の実施率など、運営管理機関から取得できるデータを確認する
- 対象と頻度を決める全員向けの年1回に加え、中途入社者向け・50代向けなど、節目に合わせた回を設ける
- 内容を「自分ごと」に絞る制度説明の再放送ではなく、配分の考え方・見直しの手順など、行動につながるテーマにする
- 効果を測って翌年に反映する研修後の配分変更率やアンケートの変化を確認し、テーマと対象を更新する
特に効果的なのは、最初のステップです。「元本確保型のまま放置されている割合」という自社の数字は、経営層への説明でも、研修テーマの選定でも、いちばん説得力のある出発点になります。
あわせて見直したいのが、中途入社者への案内です。入社手続きの書類の山に商品選択の案内を紛れ込ませるのではなく、入社後の落ち着いた時期に短い説明の機会を設ける。それだけでも「よく分からないまま初期設定のまま」という入口の放置をかなり減らせます。資料を配って終わりにせず、質問できる場をセットにすることが肝心です。
講師はなぜ「中立」を選ぶべきか
継続教育の設計で最後に問われるのが、誰に話してもらうかです。私は大手信用金庫に5年勤め、売る側の事情を内側から見てきました。その経験から言えるのは、DCの継続教育は、やり方によっては金融商品の販売機会にもなり得るということです。講師の側に販売のインセンティブがあれば、説明が特定のカテゴリに寄る可能性を構造的には否定できません。悪意の問題ではなく、立場の問題です。
会社のお金で、会社の名前で行う教育だからこそ、「誰の利益のために話しているのか」が明確な講師を選んでください。確認の仕方はシンプルです。報酬の源泉は何か。研修内で販売を目的とした勧誘を行わないか。別途の実行支援に進む場合、本人の意向確認と業務区分・報酬の説明を書面で行うか——この3点を、契約前に必ず質問することをお勧めします。
運営管理機関が提供する標準の教育メニューと、外部の中立講師による研修は、対立するものではなく役割分担です。制度と商品ラインアップの説明は運営管理機関に、「自分はどう考えて選ぶか」という判断の部分は利害のない講師に——と切り分けると、それぞれの強みが活きます。
制度の導入はゴールではありません。社員が「自分で選べる」ようになって、はじめて制度は完成します。
まとめ——放置問題に向き合う3つの視点
企業型DCのフォローを設計するときの判断軸を再掲します。
- 放置は構造の問題。社員を責めるのではなく、学び直せる場の不足を疑う
- 導入時研修と継続教育は別物。継続教育は制度上も期待される取り組みであり、自社の数字の把握から始める
- 講師は肩書きではなく「収益構造の中立性」で選び、研修内で販売勧誘を行わないことと、別途の実行支援に関する説明方針を書面で確認する
掛金を出して終わりではなく、社員が育てられるようになるまで伴走する。その設計こそが、DCという制度を「入れてよかった福利厚生」に変える分かれ目だと、私は考えています。
原稿に記載された出典・参考資料
- 複利の理解度に関する国際比較調査(2022年)
- 金融庁「NISA口座の利用状況調査」
一般的な情報提供を目的とするもので、個別商品の勧誘、税務・法務等の個別助言を行うものではありません。運用成果を保証するものではなく、ご自身の状況に応じた確認が必要です。



