この記事は2026年7月原稿の移行版です。制度・税制・統計は当時の説明であり、現在の適用条件とは異なる場合があります。個別の判断前に、公式情報や専門家にご確認ください。
本記事は判断の考え方を伝えるための架空の事例です。実在のお客さまの実績・体験談ではありません。
この記事で考えること
会社員を辞めて独立し、2年目。仕事は少しずつ回り始めたのに、お金の不安だけが消えない——。入金の多い月は気が大きくなり、少ない月は口座を見るのが怖くなる。フリーランスの方から伺う悩みで、実はいちばん多いのは「稼げない」ではなく、この「ばらつきに心が振り回される」という話です。
今回は、フリーランス2年目の方が「月給制のフリーランス」とでも呼びたくなる仕組みを作り、収入の波と心の波を切り離していった事例をご紹介します。あわせて、会社員との公的保障の違いを踏まえた、備えの優先順位もお渡しします。
相談者プロフィール——独立2年目・30代のひとり事業主
ご相談に来られたのは、会社員から独立して2年目の30代の方でした。
- 30代・独立2年目・ひとりで事業を営む
- 年間でならせば、収入は会社員時代とおおむね同水準
- 月ごとの入金額の差が大きく、使い方の基準が定まらない
相談前の悩み——「良い月」と「悪い月」に感情ごと振り回される
この方の家計は、事業用と生活用の口座が事実上ひとつになっていて、入金があればそこから生活費も経費も税金の支払いも出ていく状態でした。良い月の感覚で支出を増やすと、悪い月に一気に苦しくなる。貯蓄や将来の備えも「余裕のある月にやろう」と思ったまま、2年間ほぼ手つかずでした。
興味深いのは、年間の合計で見れば会社員時代と収入がほぼ変わらなかったことです。つまり問題は稼ぐ力ではなく、月次のばらつきをならす仕組みがないことにありました。ここでも、原因は本人の性格ではなく構造です。
相談で整理したこと①——月次のばらつきは、年次でならす
最初に作ったのは、「自分に月給を払う」仕組みです。会社員の家計が安定して見えるのは、収入が多い月も少ない月も、給料という一定額に変換されてから生活に渡されるからです。同じ変換装置を、自分で作ればよいのです。
- 直近1年の入金を並べる月ごとの波をそのまま眺め、年間の合計額を確認する
- 「自分への月給」を決める年間収入を12で割った額より控えめな金額を、事業口座から生活口座へ毎月定額で移す
- 波は事業口座で受け止める良い月の余りは事業口座に貯め、悪い月の月給の原資に充てる
- 年に1回だけ見直す年間の実績を見て、翌年の月給の水準を調整する
これで、収入の波は事業口座の中だけの出来事になり、生活は定額で回るようになります。月給を「平均より控えめ」に設定するのがコツで、差額が自然に事業口座へ積み上がっていきます。
相談で整理したこと②——会社員より「土台」を厚くする理由
次に確認したのが、公的保障の違いです。同じ「働けなくなった」でも、会社員とフリーランスでは公的な支えの厚さが違います。これは制度の一般的な仕組みの話で、どちらが良い悪いではなく、設計の前提が違うという話です。
会社員の公的保障
- 病気で長く休むとき、傷病手当金の仕組みがある
- 失業時には雇用保険の給付がある
- 年金は国民年金に厚生年金が上乗せされる
フリーランスの公的保障
- 傷病手当金に相当する仕組みが原則ない
- 雇用保険の失業給付の対象外
- 年金は国民年金が基本で、上乗せは自分で作る
働けない期間の収入を公的にカバーする層が薄い以上、フリーランスの生活防衛資金は、一般に会社員より長い期間分を確保することが望ましいとされています。この方とも、「不安で仕事の単価や選び方が歪まなくなる水準」を目標に、まず現金の土台を厚くする方針を確認しました。
そのうえで、備える優先順位を整理しました。①生活防衛資金、②働けなくなるリスクへの備え、③老後の上乗せ(小規模企業共済やiDeCo、NISAといった制度の活用を検討)という順番です。積立や投資から始めると、悪い月に取り崩すことになり、結局どれも育ちません。順番を守ること自体が、設計なのです。
POINT
フリーランスの家計は「①現金の土台 → ②働けないリスク → ③老後の上乗せ」の順番で。逆から積むと、収入の波に飲まれてすべてが中途半端になります。
一つ、売る側にいた立場から付け加えます。信用金庫時代、独立した方には貯蓄型の保険や積立商品が提案されがちでした。しかし収入が波打つ人が毎月固定の支払いを増やすのは、本来相性のよくない組み合わせです。金融商品の前に、まず口座の仕組みと現金の土台。順番を飛ばした提案には、慎重になってよいと思います。
その後の変化——「月給制のフリーランス」になった
仕組みを作って数か月、生活口座には毎月同じ金額が入り、日々の暮らしは会社員時代の感覚に近づきました。良い月に気が大きくなることも、悪い月に眠れなくなることも減ったそうです。事業口座には波の差額が積み上がり、生活防衛資金が育ち始めています。印象的だったのは「収入は不安定なままなのに、不安じゃなくなった」という言葉でした。波を消すことはできなくても、生活に伝わる揺れは設計で小さくできます。
まとめ——不安定な収入は、仕組みで安定させる
同じ状況の方への判断軸は、次の3つです。
- 月次のばらつきは年次でならす。「自分への月給」を控えめな定額で決める
- 公的保障が会社員より薄い分、生活防衛資金は長めの期間分を目標にする
- 備える順番は「現金の土台→働けないリスク→老後の上乗せ」。逆から積まない
なお、税金や社会保険の個別の扱いは状況によって異なりますので、具体的な判断は税理士等の専門家にご確認ください。収入の波そのものは、あなたの実力不足ではありません。波を生活に伝えない仕組みさえあれば、フリーランスの家計は静かに安定していきます。
一般的な情報提供を目的とするもので、個別商品の勧誘、税務・法務等の個別助言を行うものではありません。運用成果を保証するものではなく、ご自身の状況に応じた確認が必要です。



