この記事は2026年7月原稿の移行版です。制度・税制・統計は当時の説明であり、現在の適用条件とは異なる場合があります。個別の判断前に、公式情報や専門家にご確認ください。
本記事は判断の考え方を伝えるための架空の事例です。実在のお客さまの実績・体験談ではありません。
この記事で考えること
定年の数年前になると、会社から立て続けに「選択」を求められます。退職金は一時金で受け取るか、年金形式で受け取るか。再雇用で働き続けるか、区切りをつけるか。どれも人生で一度きりの、やり直しの利かない選択です。それなのに、判断材料の集め方は誰も教えてくれません。
今回ご紹介するのは、定年を3年後に控え「決めることが多すぎて、何から手をつければいいのか分からない」と相談にいらした方のケースです。お伝えしたいのは個々の選択の正解ではなく、その手前にある「決める順番」の整理です。
相談者プロフィール
- 50代後半の会社員。3年後に定年を控える
- 配偶者と2人暮らし。お子さまは独立済み
- 再雇用制度はあるが、給与は現役時より下がる見込み
相談前の悩み——選択肢が多すぎて、順番が分からない
ご相談者の頭の中には、退職金の受け取り方、再雇用の可否、年金をいつから受け取るか、住宅ローンの残りをどうするか、といった論点が同時に渦巻いていました。個別に調べようとすると、税金や社会保険の話が絡んで難易度が一気に上がり、調べるほど混乱する。その繰り返しで足踏みしていたのです。
退職金は勤務先や働き方により異なり、公的年金の将来見通しも、経済・人口などの前提によって変わります。親世代の暮らしをそのまま参考にするのではなく、ご自身の退職金の見込額と年金の加入記録を確認することが大切です。
将来への不安だけで、ご自身の老後が成り立たないと決めつける必要はありません。必要なのは悲観ではなく、自分の年金見込額と必要生活費で確かめる手順でした。
相談で整理したこと——選ぶ前に「決める順番」を決める
私が信用金庫にいた頃、退職金は金融機関にとって最大の商機のひとつでした。退職金が振り込まれる時期のお客さまには、運用や保険の提案が自然と集まります。売る側の内側にいた者として言えるのは、受け皿を決めないまま大きなお金を受け取ると、提案される順番でお金の使い道が決まってしまいがちだ、ということです。だからこそ、受け取る前の今のうちに、ご自身の設計を先に固めておく価値があります。
ご相談者と整理した順番は、次のとおりです。
- 定年後の生活費を見積もる今の家計をベースに、定年後に減る支出・残る支出・新たに増える支出を仕分けし、月の生活費に落とす
- 収入の見込みを確認する再雇用時の給与水準、年金の見込み額、配偶者の収入を確認し、時期ごとの収入の線を引く
- 退職金の「役割」を先に決める生活費の補填・住宅ローン・予備費・将来への備えなど、使い道の優先順位を受け取り方より先に決める
- 受け取り方は最後に、試算とともに選ぶ一時金と年金形式では税や社会保険の扱いが異なるため、役割が決まってから個別に試算して比較する
ポイントは、多くの方が最初に悩む「一時金か年金か」を、あえて最後に回すことです。受け取り方は手段であって目的ではありません。生活費と役割が決まっていない段階で受け取り方だけを比べても、判断のしようがないのです。
| 一時金で受け取る | 年金形式で受け取る | |
|---|---|---|
| 受け取り方 | まとまった額を一度に受け取る | 分割で定期的に受け取る |
| 税・社会保険 | 一時金としての税の扱いになる | 受け取る年ごとの収入として扱われる |
| 向き合い方 | 大きなお金を自分で管理する力が要る | 使いすぎは防ぎやすいが柔軟性は下がる |
その後の変化——「決める順番」が決まると、足踏みが終わった
生活費の見積もりと収入の確認を終えた時点で、ご相談者の表情は明らかに変わりました。再雇用で給与が下がっても家計が回るのかという最大の不安に、自分の数字で答えが出たからです。再雇用は「収入のため仕方なく」ではなく、「働き方を選ぶ余地がある」という前提で検討できるようになりました。
退職金についても、先に役割を決めたことで、受け取り方の比較は「残った論点」だけに絞られました。あとは定年までの間に、専門家の試算を受けて確定させる予定です。3年という時間は、こうした手順を焦らず踏むのに十分な長さでした。
POINT
定年前の選択は「生活費→収入→退職金の役割→受け取り方」の順で決める。最初に受け取り方から悩むと、判断材料がないまま足踏みが続く。
まとめ——選択肢に迫られる前に、順番を手に入れる
定年を数年後に控えた方への示唆は、次の三つです。
- 迷いの原因は選択肢の多さではなく、決める順番が決まっていないこと
- 受け取り方の比較は最後。先に定年後の生活費と収入の線を自分の数字で引く
- 退職金は受け取ってから考えるのではなく、受け取る前に役割を決めておく
定年3年前は、遅いどころか絶好のタイミングです。時間があるうちに順番を整え、大きな選択を落ち着いて迎えてください。
原稿に記載された出典・参考資料
- 厚生労働省「就労条件総合調査」等(大卒の退職金平均、2023年)
- 厚生労働省 公的年金の財政検証(所得代替率の見通し、2019年)
一般的な情報提供を目的とするもので、個別商品の勧誘、税務・法務等の個別助言を行うものではありません。運用成果を保証するものではなく、ご自身の状況に応じた確認が必要です。



