この記事は2026年7月原稿の移行版です。制度・税制・統計は当時の説明であり、現在の適用条件とは異なる場合があります。個別の判断前に、公式情報や専門家にご確認ください。
この記事で考えること
お子さんが生まれると、多くのご家庭が一度はこの問いにぶつかります。「教育費は学資保険で貯めるべきか、それともNISAで運用すべきか」。調べれば調べるほど、「学資保険は損」「投資は危ない」と正反対の意見が出てきて、かえって動けなくなる——そんなご相談をよくいただきます。
先にお伝えしたいのは、この論争には「どちらが正解」という答えがない、ということです。正確に言えば、商品を比べている限り答えは出ません。比べるべきは商品ではなく、そのお金の「目的」だからです。
この記事では、教育費の貯め方を「いつ・何に使うお金か」という目的から整理する考え方をお渡しします。読み終わる頃には、ご自身の家庭に合う組み合わせを自分で判断できるようになっているはずです。
「どちらが得か」の前に、「いつ使うお金か」を決める
お金には、使う時期によって性格の違いがあります。大きく分けると次の2つです。
使う時期が決まっているお金
- 大学入学金のように支払う年月がほぼ確定
- 求められるのは「その時、確実にあること」
時期に幅があるお金
- 大学院進学・留学・卒業後の支援など
- 時間の余裕がある分「増やす選択肢」を持てる
学資保険かNISAかという問いは、実はこの2種類のお金を区別しないまま、ひとつの器で全部をまかなおうとするから難しくなるのです。目的を先に分ければ、器の選び方は自然に決まっていきます。
大学入学の年は「延期できない」——時間の性質を直視する
教育費が住宅資金や老後資金と決定的に違うのは、時期を動かせないことです。家の購入は数年待てますし、老後の取り崩し開始も調整の余地があります。しかし、お子さんの大学入学は「相場が回復するまで2年待とう」ができません。
投資には価格の変動がつきものです。長い目で見れば分散投資の成果に期待する考え方があるとしても、使う直前に相場が下がっていたら、下がったまま換金するしかない——これが、時期の決まったお金を運用だけでまかなうことの本質的なリスクです。
だからこそ、入学金や初年度の学費のように「その年に必ず要る」お金は、増やすことよりも「減らないこと・確実にあること」を優先する。これは投資への賛否とは関係のない、時間の性質から導かれる結論です。
POINT
「その支出は延期できるか?」——延期できないお金ほど確実性を、延期や調整ができるお金ほど成長性を重視する。これが教育費の貯め方の軸になります。
時期に幅があるお金は「増やす選択肢」を持てる
一方で、教育費のすべてが「延期できないお金」ではありません。使うまでに10年以上ある資金や、進路によっては使わない可能性もある備えについては、物価の上昇で実質的な価値が目減りするリスクにも目を向ける必要があります。増やす選択肢を持つことは、こうしたお金にとってはむしろ守りでもあるのです。
その受け皿のひとつが、2024年に始まった新NISAです。制度の枠としては、つみたて投資枠が年120万円、成長投資枠が年240万円、生涯投資枠は1,800万円と定められており、少額からの積立にも対応しています。もっとも、制度が使えることと、そこで何をどれだけ積み立てるかは別の問題です。値動きを受け入れられる金額の範囲で使う、という原則は変わりません。
現実解は「確実性の器」と「成長の器」の併用
ここまでを踏まえると、多くのご家庭にとっての現実解はシンプルです。確実性の器と成長の器を、目的に応じて併用すること。たとえば、入学時期に合わせて確実に用意したい部分は貯蓄性の商品や預金などの確実性重視の器で、時期に幅のある部分は積立投資などの成長の器で、と役割を分ける考え方です。
確実性の器
- 向くお金:使う時期が決まっている部分
- 重視すること:減らない・確実にある
- 例:預金や貯蓄性の商品など
成長の器
- 向くお金:時期に幅がある部分
- 重視すること:物価上昇に備えて増やす選択肢
- 例:積立投資(NISAなどの制度の器)
配分に唯一の正解はありません。家計の余力、教育方針、値動きへの耐性によって、適切なバランスは家庭ごとに違います。大切なのは、「全部を保険に」「全部を投資に」という一本足にしないことです。
実務的なコツをひとつ挙げるなら、毎月入ってくる児童手当のように「使い道を決めずに受け取っているお金」を、この目的別の器に最初から振り分けてしまうことです。生活費に紛れる前に行き先を決めておくと、教育費の積立は驚くほど続けやすくなります。
また、器を分けておくと、途中で家計が苦しくなったときにも「どちらを一時停止するか」を目的に照らして選べます。全部をひとつの器に入れていると、止めるか続けるかの二択しかなくなってしまうのです。
器を比べるのではなく、お金の目的から器を選ぶ。
「どちらかを全否定する情報」から距離を置く
最後に、情報との付き合い方について。「学資保険は絶対に損」「投資で教育費なんてあり得ない」——どちらか一方を全否定する言説は、歯切れがよく、拡散されやすいものです。しかし私の経験では、断定の強さと中立性は反比例します。
私は信用金庫で5年間、金融商品を売る側にいました。売る側には、その時々で「売りたい商品」があります。おすすめの強さが、あなたの事情ではなく売り手の事情から来ていることは、残念ながら珍しくありません。全否定・全肯定の情報に出会ったら、「この人は何を売りたいのだろう」と一歩引いて眺めてみてください。
まとめ——商品ではなく「目的」から逆算する
教育費の貯め方に迷ったら、この3行に立ち返ってください。
- 使う時期が決まっているお金は、確実性を最優先する
- 時期に幅があるお金は、増やす選択肢(成長の器)を検討できる
- どちらか一本ではなく、目的に応じた併用が現実解
学資保険かNISAかという問いに、家庭の数だけ答えがあります。商品から考えるのではなく、お子さんの進路というゴールから逆算する。その順番さえ守れば、論争に振り回されることはもうありません。
原稿に記載された出典・参考資料
- 金融庁「NISA特設ウェブサイト」(新NISAの制度概要、2024年開始)
一般的な情報提供を目的とするもので、個別商品の勧誘、税務・法務等の個別助言を行うものではありません。運用成果を保証するものではなく、ご自身の状況に応じた確認が必要です。



