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JOURNAL / ライフイベント

「借りられる額」と「返せる額」は違う——家を買う前の予算の決め方

住宅ローンの審査に通った額なら返せるはず、は危険な思い込みです。銀行の審査の内側の仕組みと、手取りベース・維持費・教育費との重なりから「返せる額」を自分で決める手順を独立系FPが解説します。

日当たりのよい空室で、住まいについて相談する夫婦(イメージ)
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原稿時点とご利用にあたって

この記事は2026年7月原稿の移行版です。制度・税制・統計は当時の説明であり、現在の適用条件とは異なる場合があります。個別の判断前に、公式情報や専門家にご確認ください。

BEFORE YOU READ

この記事で考えること

「銀行の審査でこの金額まで借りられると言われたので、その前提で物件を探しています」。住宅購入のご相談で、いちばんよく聞く言葉です。そして、私がいちばん立ち止まっていただきたい言葉でもあります。

審査に通る額と、あなたの家計が無理なく返していける額。このふたつは、まったく別の計算から出てくる数字です。ここを混同したまま物件価格が決まってしまうと、その後の人生の家計は、常にローンに合わせて組み立てることになります。

この記事では、銀行で融資の現場にいた経験も踏まえて、「借りられる額」がどう決まっているのかという内側の話と、「返せる額」を自分で決めるための手順をお渡しします。

審査は「銀行のリスク計算」であって「家計の幸福計算」ではない

まず、内側の話からします。私は信用金庫で働いていたので、融資審査がどういう思想でできているかを知っています。ひとことで言えば、審査は「この人に貸して、銀行が回収できるか」の計算です。

審査が見ているのは、年収や勤務先の安定性、他の借入、物件の担保価値。つまり「貸し倒れない確率」です。そこには、あなたのご家庭が旅行を楽しめるか、子どもの進路の選択肢を狭めずに済むか、老後の準備と両立できるか——といった観点は、一切含まれていません。当然です。それは銀行の仕事ではないからです。

だから「審査に通った」は「銀行が回収できると判断した」以上の意味を持ちません。生活を切り詰めてでも返済し続けてくれるなら、銀行の計算は成立します。審査の上限額は、家計にとっての適正額ではなく、銀行にとっての許容額。この一点を押さえるだけで、予算の考え方は大きく変わります。

借りられる額

  • 銀行のリスク計算から出る数字
  • 視点は「貸して回収できるか」
  • 家計の幸福は計算に含まれない

返せる額

  • 自分の家計から逆算する数字
  • 視点は「貯蓄を止めずに払えるか」
  • 決められるのは自分だけ

額面ではなく「手取り」で考える

次に、返せる額を考える土台の話です。住宅予算の議論では年収という言葉が多用されますが、そこで指されるのはたいてい額面の年収です。しかし、実際にローンを返すのは、税金や社会保険料が引かれた後の手取りです。

額面と手取りの差は、決して小さくありません。額面を基準に返済額を決めると、体感としては想定よりずっと重い返済を背負うことになります。返済計画は、必ず手取りの月額を出発点にしてください。

手順は次のとおりです。

  1. 手取り月額を確認するボーナスは景気や業績で変わり得るため、当てにしすぎない
  2. 生活費と貯蓄額を書き出す現在の毎月の支出と、続けたい貯蓄額を把握する
  3. 払える住居費を先に決める貯蓄を止めずに払える毎月の上限額を決める
  4. 予算の上限を逆算するその月額から、物件を見る前に予算を確定する

順番が大切です。物件を見てから返済額を決めるのではなく、返せる月額を先に決めてから物件を見る。順番を守るだけで、予算オーバーの多くは防げます。

POINT

「今の家賃と同じ返済額なら大丈夫」という比較にも注意が必要です。持ち家には、家賃にはなかった維持費が上乗せされます。比較するなら「返済額+維持費」と家賃です。

ローンの外側にある維持費を忘れない

持ち家の支出は、ローン返済だけではありません。代表的なものを挙げます。

  • 固定資産税など、保有しているだけでかかる税金
  • 修繕の費用(マンションなら修繕積立金、戸建てなら自分で積み立てる外壁・屋根・設備の更新費用)
  • 火災保険や地震保険といった、住まいを守る保険料
  • マンションの場合は管理費や駐車場代

これらは毎月の返済額の外側で、しかも住んでいる限り続く支出です。とくに戸建ての修繕費は、請求書が来ないぶん忘れられがちですが、時期が来れば確実に発生します。予算を考える段階から、返済額に維持費を上乗せした金額を「住居費」として見ておく。この一手間が、入居後の家計を守ります。

教育費・老後と「同じ財布」で考える

住宅予算を単体で考えないことも重要です。住宅ローンの返済期間は数十年に及び、その途中には、教育費の山や親の介護、ご自身の老後準備が重なってきます。

とくに注意したいのが教育費との重なりです。子どもが小さいうちに家を買うと、購入時点では返済に余裕があるように見えます。しかし教育費の支出の山は大学入学前後にやって来る。購入時の家計ではなく、教育費の山が来たときの家計で返済を続けられるか——予算の妥当性は、この時点でテストすべきです。

ここまでの話を裏返すと、住宅予算とは「人生の他の支出に、いくら残しておくか」を決める作業だと分かります。家は人生最大の買い物と言われますが、最大だからこそ、他のライフイベントとの同じ財布の中で決める必要があるのです。

住宅予算とは、家に出せる上限ではなく、家以外の人生に残す金額を決めることです。

「予算が上がるほど嬉しい」構造を知っておく

最後に、住宅購入の登場人物たちの立場を、公平に整理しておきます。

不動産会社の収入は物件価格に連動する手数料が中心で、銀行の収入は貸出額に応じた利息です。つまり構造上、あなたの予算が上がるほど、両者の収入も増える関係にあります。これは彼らが悪質だという話ではありません。担当者の多くは誠実に仕事をしています。ただ、ビジネスの構造として、予算を下げる方向の提案は生まれにくい、ということです。

私が信用金庫にいた頃も、お客様の借入額を心配して減らす方向で動く担当者は、正直に言えば多数派ではありませんでした。仕組み上、そうなりにくいのです。だからこそ、予算の上限だけは、売り手の誰でもなく、あなた自身が家計から決める必要があります。

まとめ——予算は自分の家計から逆算する

家を買う前の判断軸を3つにまとめます。

  • 審査の上限額は銀行のリスク計算の結果であり、家計の適正額ではない。「借りられる額」から物件を探さない
  • 手取り月額から「貯蓄を止めずに払える住居費」を先に決め、維持費も上乗せして逆算する
  • 教育費の山が来た時期の家計でも返せるか、購入前にテストする。予算を決めるのは売り手ではなく自分

予算を自分で決めてから臨む住宅購入は、驚くほど冷静に進められます。物件の魅力に出会う前に、まずはご自身の家計と向き合う時間を取ってみてください。

一般的な情報提供を目的とするもので、個別商品の勧誘、税務・法務等の個別助言を行うものではありません。運用成果を保証するものではなく、ご自身の状況に応じた確認が必要です。

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